遅刻した人の小話


 「遅れました……」
「お、遅刻か、珍しいな。どうした?」
「家から自転車に乗ってきたのですが、道のりの三分の一くらいのところにある交差点で、信号が青になったので横断歩道を渡っていると、左折してきた車がスピードを落とさずに突っ込んできて轢かれてしまいまして……まあ、たいしたけがじゃなかったんで、そのまま自転車に乗って、道のりの五分の二くらいまできたところで、また車に撥ねられました。そして次の交差点で信号待ちしていたら、暴走車がこちらに向かって突っ込んできて轢かれました。後でわかったことなんですが、その暴走車の運転手は飲酒運転をしていたそうです。で、また自転車をこいで信号を二つほど渡ったところで、自転車に追突されて、そのまま少し進んで公園のそばを通ったとき、そこで野球をしていた子供の打ったボールが頭に直撃してそのまま道路側に倒れたところに、公園の向かいで建設工事をしていたビルから鉄骨が十本ほど落ちてきて押しつぶされました。で、鉄骨をどかして、また自転車をこいでいると、向かいから自転車に乗った男の人がきて、すれ違いざまにナイフでお腹を刺されました。そのあと、なんとか学校のすぐ近くまで来たのですが、そこの交差点で、車に撥ねられたところに別の車が突っ込んできて、二台の車に十分ほど挟まれたままになりまして、そのとき誰も助けてくれなかったのですが、やっと自力で抜け出せたので、学校に行こうとしたら自転車が大破していて、仕方がないのでそれを持って歩いてきたら遅れました……」
「……そりゃ災難だったな……」
「……というわけで、保健室に行ってきてもいいですか?」
「……わかった、行ってこい。えっと、保健委員は……」
「私です。それでは行ってきます。」





直線創作 index > works > novel > 遅刻した人の小話