踏み切らない(ふみきれない) 踏切を駆け抜ける風。僕らを追い越して、一足お先にっと向こう岸へ渡ってゆく。 やかましい警報を奏でながら、遮断機が下りる。 僕らも風と張り合って全速力ダッシュ。案の定、間に合わない。 二本の棒が、レールを包み、そして世界を二分する。こちらと、あちら。間に合った空間と、遅刻した空間。 黄色と黒の縞模様を身にまとった棒が、僕らの行く手を阻む。 だけど風は僕らを追い越して、一足お先にっと向こう岸へ渡ってゆく。棒さえも無視して。 遠くから来訪者の呼び鈴が聞こえる。 ……遠くから来訪車の呼び鈴が聞こえる。 あちらの世界から、女の子が手を振っている。勝手に行っちゃだめよと母の声。 こちらとあちらを遮断する、三途の川な切断面。世界が再びくっつくまで、しばしのお別れ切断面。空を飛んだら逢えるけど、そうはさせない(できない)切断面。 女の子が消える(なくなる)。視界の電車は4両編成。 通り抜けるは8秒間、僕の脈拍120。 そして開ける僕の視界。まもなく世界が解放される。 親子の再会、そして二人は歩きだす。 僕は静止したまま、その場から動かずに、ただ遠くを眺めてる。 さっきまで隣にいた少女は先を急ぐ。そして僕らはばらばらになる。 線路は何処までも続いている。 僕は一人で感慨にふける。 線路は遠くを知っている。 僕が知るのはすぐそばだけだ。 線路は近くも知っている。 僕にわかるのは目の前だけだ。 目を閉じて、感じる。 少し先から、鐘の音が聞こえる。 学校の | |
直線創作 index > works > novel > 踏み切らない(ふみきれない) | |