ランダマイズ症候群


    1

 気のおもむくままに雲を掴んだら雲は儚く消えていく。日進月歩から計算すると日に進む長さというのは数センチメートルも無い。桜が咲いているのを今年は見ていない。夢を滝が分断した。だからどうした。僕には関係の無い話だ。
 静かにパソコンを起動させる。モニターの向かいには何がある。何も無い。モニターの手前には何がある。何も無い。僕という存在はモニターに映ることなく揺れ動く。

    2

 食卓には茶碗が一つ。茶碗には米粒が一万。米粒は水分に浸されることを待たず、ひっそりと暮らしている。米粒たちの衣服は剥がされ、暖房の効いていない湿度の低い食卓でただひっそりと暮らしている。だから僕は容赦なく彼ら(もしくは彼女ら)を口に運ぶ。ただし、硬い。口の中の骨が少し砕けた。
 淹れたてのコーヒーに白い粉をスプーンで掬って振り掛ける。同時にふりかけを彼女たち(もしくは彼たち)に振り掛ける。それからコーヒーを啜って、茶碗に水を入れる。Y字マドラーでコーヒーと茶碗を同時に軽く混ぜたら、茶碗だけを連刺電磁にかける。そして現れたのはふっくら米粒。又の名を「ごはん」と称する茶の無い御茶漬け。

    3

 一度限り、使った時点から一分間だけ過去に戻ることができる箸をもらった。つまり、今した失敗を無かったことに〜♪ という訳だ。使い方は二本の箸を同時に両方の鼻に差し込む。だから確かめてみた。箸をもらってから三十秒後、僕は両手に一本ずつの箸を持って、それを鼻の穴に差し込んだ。そして気が付いたら手から箸が消えていた。代わりに三十秒前に箸をくれた人が僕の正面に立っていた。どうもこんにちは。
 コーヒーが埃を被っていたから潔く捨てた。そしたらごみ箱とパソコンを間違えたせいでパソコンが壊れた。壊れたパソコンから溢れ出した滝を夢が分断した。そして、水蒸気が液化して雲が発生した。





直線創作 index > works > novel > ランダマイズ症候群