原因不明の崩壊神話

05.はじめの(−1)歩


 最初の一歩が怖い生物たちは、永遠にだるまさんがころんだで鬼に触れることはできない。でも、最初の一歩を恐れずに特攻隊長をしたところで見返りなんてなく、むしろ逆に捕まるリスクをいたずらに引き上げるだけ。そしてあえてそこに突っ込んでいくのは元々リスクの無い子供か、もしくはそれを知らない大人か。

 「そうかい、君も魔界への扉に手を出すんだね」
仰々しく言ってのけたそいつは、確かティサ(やっぱり偽名)と名乗っていた。どうせ偽名なんだし、名乗る必要なんてそもそも無さそうだけど。そして聞いてもいないけど。
「というか、あんたどっから出て来た」
「気にするでないよ」
ここはタウの棲家で、ということはティサは不法侵入なわけで、だけど法なんてあってないような代物になっているからそんなに問題でもなくて、なら何が問題かというと、
「あんまりお勧めしないよ。君のやろうとしていることは賭け事とそんなに変わらない」
ティサの目的はタウの決意の妨害だということだ。
「賭け事じゃない。消耗だ」
そして論点が微妙に食い違っているのが、最大の問題。
「ならば何故、君はわざわざそんなことをするんだい? 今のままでいればずっと必要十分な暮らしができるというのに」
「つまらないから。わかったら速いとこ帰って。早くじゃなくて速く」
「しゃーないね。そこまで言うなら止めないよ。後で後悔しても知らないからね」
「後悔しない程度の覚悟ならできてるさ。さあ帰った帰った」

 何を以ってどれほどの覚悟と呼ぶかは、曖昧だ。そんなことを考えていたタウは、3日にたった1回の食事をすっぽかしてしまった。



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